「仮想通貨」から「暗号資産」に名称が公的に変更されるのはもはや既定路線と言ってもいいでしょう。

現在の暗号資産界隈では、既に「暗号資産」という名称を用いている方々と、未だ「仮想通貨」や「暗号通貨」と言う名称を用いている方々、または「その他の呼び方」を模索している方々がいらっしゃるようです(法的な動向にセンシティブな方々は特に、暗号資産の名称を使用しているように思われます。)。
そして、SNS等を確認する限りでは、「通貨」という言葉が使用されなくなることに対して、かなり怯えているような方々もいらっしゃる様子。
果たしてそこまで「資産」という言葉が悪い言葉なのでしょうか??
この投稿では、「資産」と言う言葉を改めて考え、「暗号資産」という言葉が「仮想通貨」や「暗号通貨」という言葉と比較して、どのような意味を持ち、対象範囲がどの様になるのかを考察したいと思います。
1. 「資産」の意味
1.1 「資産」の辞書的な意味と「通貨」の位置づけを確認
まずは資産の辞書的な意味を確認してみましょう。

なるほど、・・・金銭等の総称ですか。これにはもちろん通貨も含まれるでしょう。
つまり、
「資産」は「通貨」を包含する概念である
という事がまず間違いなく言えます。
イメージとしては以下の図の通りになります。資産の特性として分かりやすいように、企業会計分類に則って図示しました。いかに「資産」の範囲が幅広いものかを認識するのには良いかと思われます。
上記の流動資産、固定資産、繰延資産には数多くの項目があり、その中から抜粋しただけでも上記の通り幾つもの種類が挙げらます。
すなわち、
「通貨」というものは単なる「資産」の一項目でしかないのです。
1.2 今まで「通貨」として定められた実態は?
そして、現状においても仮想通貨は「通貨」という名称がついているにも関わらず、国によって価値が保証された通貨としては認められていないのです。それは、以下の仮想通貨法の条文からも明らかです。
5 この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
上記のオレンジ色で着色した文字列を見て頂ければわかりますが、明確に通貨や通貨建て資産だとはされていないことがわかります。つまり、現金等の「通貨」やSUICA等電子マネーの様な「通貨建資産」ではなく、財産的価値を有しているものとだけ規定されているのです。
すなわち、「通貨」という実態を持たずして「仮想通貨」と名付けられてしまったがために、一部では混乱が生じ、今まで何となくその名称が使用されてきた感が否めません。
実態としては、上記の条文に掲げられるように、少なくとも「資産」であると間違いなく言えるでしょうし、会計実務等でも勘定項目として「投資その他資産」に含める様な形で申告しているようです(保有目的によってもちろん勘定項目は変更されますが。)。
つまり現在、仮想通貨は「資産」として扱われているのです。
2. 「暗号資産」「暗号通貨」「仮想通貨」の言語的範囲
先述の「資産」の範囲を踏まえたうえで、改めて「暗号資産」「暗号通貨」「仮想通貨」の範囲を確認してみましょう。
この分類を確認する上で、4つのワードに着目します。それは、
- 暗号
- 仮想
- 資産
- 通貨
です。
資産が通貨よりも明らかに広い概念という事はすでに説明しました。
また、「仮想」的な何かが「暗号」学的な何かよりも広い概念であることは間違いないでしょう。
以上の条件により、各ワードの範囲をまとめた図は次の通りです。
上図の通り、
①暗号資産は、「資産」という幅広いワードを持ち、範囲としても3つのワードの中でも最も広くなり、基本的には各ワードを包含するものとなります。
➁暗号通貨は③の仮想通貨に含有され、範囲としては最も狭くなります。
③仮想通貨は赤字で記載した通り、その字体のみからは暗号学的手法によって処置が施されていない通貨も含まれるため、①暗号資産以外のものも含まれ得ます。
従って、「暗号資産」という言葉が、今後どれだけ柔軟に使用していけるかが分かるでしょう。G20等では「Crypto asset」という言葉を暗号資産として扱っていますが、今後はCrypto assetの一部を通貨としてみなす国も増えてくるかもしれません(ベネズエラのペトロの様に・・・成功しているかどうかは別にして。。)。
3. おわりに
以上の通り、暗号資産と言う多目的に柔軟に使用できる言葉は、「通貨」として使用できる余地を残したまま、誤解を与えないような表現となります。
仮想通貨や暗号通貨と呼びたい方、またはそれ以外の呼称で呼びたい方等、事情はそれぞれあるかもしれませんが、呼称はある物事の性質を固める上で大変重要な概念であるため、早めに認識も固まっていってほしいものです。
そのためには、資金決済に関する法律の改正(または金商法への移行?)が今後は必要となるでしょうが、その施行時期等には着目していきたいと考えています。
4. 追記
1.安倍首相が「暗号資産」と呼ぶ事を名言(2019年2月7日)
安倍首相が、
・仮想通貨は今後「暗号資産」と呼ぶ事を国会答弁で明言し、更に、
・ブロックチェーン技術は「勉強している」
事についても発言しました。

この発言についてはG20等の国際的な動向を踏まえたものだと考えられますが、一国の首相が明言したことの影響は強いものでしょう。首相以下の各議員たちも今後は仮想通貨ではなく「暗号資産」という言葉を使用していくように思われます。
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