Satoshi Nakamotoの考察

暗号資産を取り巻く歴史

Bitcoinの創設者であるSatoshi Nakamotoの素性を知る者はいるのでしょうか?いや、恐らくいないでしょう。なぜならば、彼ほど有名になりながら匿名を貫くことは非常に困難であるためです。一方、「サトシ・ナカモト」という名前の響きから、未だ多くの日本人が、彼を自分達と同じ日本人だと思っているのかもしれません。

しかし、残念ながらそれは間違いである可能性が非常に高いと言えます。

2009年に彼が「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」の論文を提示し、数多くのメディアが、Satoshiは誰か、どこの国の人か、本当に一人の人物なのか等の様々な考察や憶測を行ってきました。それらの中で核心を捉えたものは一握りであり、その情報の多さに困惑してしまっている方々も少なくないでしょう。そして、日本のブログ情報等を見てみても、各メディアがSatoshiをどう考えているかの単なる「紹介」に過ぎないものが数多く挙げられ、枚挙に暇がありません。

そこで、この投稿では、現在までに判明している情報を基に、単なる「紹介」ではなく、体系的な「考察」を行います。考察の方法としては、基本的かつ有効なフレームワークである5W1Hを用い、客観的に情報を整理し、ある人物をSatoshiだと帰納的に判定します。なお、上記考察を行う前提として、今までメディアで取り上げられた人物からSatoshiに最も近い人物をピックアップします。これは、今まで全くメディアに取り上げられなかった第三者をSatoshiだとするよりも、明らかに本人判定の確率が高まるためです。さて、この体系的な考察からSatoshiは誰と判定されるでしょうか?

この投稿は非常に長くなることが予測されるため、結論から入ります。

Satoshi Nakamotoは・・・(+マークをクリックで結論を表示)
2005年にBitgoldを提唱したアメリカ人「Nick Szabo」だと考えられる。

 

この結論は、以下の5W1Hに基づいて帰納的に導いたものです。Satoshiを特定する有力な情報については、以下の「5W1Hに基づいた情報整理」にまとめました(詳細は各5W1Hの記事中に記載し、その中で黄色でハイライトした部分を、情報整理としてとりまとめました。)。

5W1Hに基づいた情報整理

以下の情報整理から、法律や経済学に堪能で、Bitcoinに最も近い概念であるBitgoldを2005年に既に提唱していたアメリカ人の「Nick Szabo」がSatoshi Nakamotoである可能性が高いと考えられます。

5W1H情報整理
What・完全なP2P電子通貨の実現
When・Bitcointalkへの投稿から、イギリスまたはアメリカで生活していた可能性が高い
Where・2009年1月のデバッグ情報からSatoshiはカリフォルニア周辺に居た可能性が高い
Who・Nick SzaboはBitcoinに最も近い概念のBitgoldを提唱した、法律や経済学に堪能なアメリカ人であり、文体もSatoshiと似通っている
Why・歴史を振り返ると「銀行等の第三者が介入しない決済システム」が必要のため
How・Bitcoinの骨格はSatoshiが一人で創り上げた

What?(Bitcoinのコンセプト)

  • 完全なP2P電子通貨の実現
    Satoshiの論文のAbstractにあるように「A purely peer-to-peer version of electronic cash」の実現、つまり完全なP2P電子通貨の実現こそがBitcoinのコンセプトです。これにより、第三者機関等を介さずに二重払い問題を解決することが可能となります。

When?(いつBitcoinの開発が行われたか?)

Bitcoinの最初の論文の発表日

  • 後述の様に、2008年8月にHash Cashを提唱したAdam BackやB-moneyを提唱したWei Daiにe-mailを通して接触しました。以下の左の原稿が、2008年8月22日にWei Daiに送付したとされるBitcoin論文の当時の原稿です。
    そして、左の原稿を修正した後、以下のサイファーパンクのメーリングリストに最初の論文を紹介したのは2008年10月31日のハロウィンの日でした。
    Bitcoin P2P e-cash paper

Bitcointalkへの書き込み時間帯

  • SatoshiのBitcointalkへの書き込み時間の生データは以下のサイトから取得できます。
    http://satoshinakamoto.me/raw-stats.txt
    今回、彼の書き込みの頻度や主要な時間帯を確認するために、上記生データのイギリス標準時間(GST)の他、ロサンゼルス時間(PST)、ニューヨーク時間(EST)、日本時間(JST)にそれぞれ修正した表を作成しました。

    上表から明らかですが、Satoshiが日本で活動していた可能性は極めて低いでしょう。一方で、イギリスで生活していた場合、彼は夜型だと考えられます。また、ロサンゼルスで生活していた場合、彼は老人かと見まがうくらい朝型でしょう(後述のDorian Satoshi NakamotoがSatoshi本人であれば、納得してしまうくらいです。)。ニューヨークで生活していたとすると、極めて一般的なライフスタイルですが、Satoshiと考えられている人物でニューヨーク付近に住んでいた方はいないようです。この統計から、彼がイギリスまたはアメリカで生活していた可能性は否定できない一方、日本で生活していた可能性は限りなく低い事が判明しました。

Where?(どこでBitcoinの開発が行われたか?)

アメリカのカリフォルニアが濃厚

Who?(Satoshi Nakamotoの特徴、誰と関連していたか)

Satoshi Nakamotoの特徴

  1. 名前
    Satoshi Nakamotoの名前については、「中本哲史」と日本語表記をしているサイトもありますが、これは原文のどこにも出現しない表記であるため、誰かが勝手に当て字をしたものと考えられます。彼の人格に偏見をもたらす、大変愚かな行為だったと言えるでしょう。
    従って、彼の名前についての情報は「Satoshi Nakamoto」と言う英字表記のみであり、それ以外の名前に関する有力な情報は一切判明していません。
  2. 筆跡
    完璧なブリティッシュイングリッシュを使用したとされます。例えば、色を表す英語としてアメリカ英語の「color」ではなくイギリス英語の「colour」を使用したり、「Bloody hard」等のブリティッシュ・スラングを何度か使用する場面も見られました。そのため、Satoshiはイギリス人かまたはイギリス英語に堪能となるような経歴の持ち主だと考える方も少なくありません。
    https://bitcointalk.org/index.php?topic=234.msg1976#msg1976
    一方で、Bitcoinのver0.1を提示する際には「You can enter as long of a message as you like」という様なアメリカ英語を使用していたと指摘し、Satoshiは自分の来歴を隠蔽するためにイギリス英語をしたのではないかという分析もなされました。
    https://www.thetimes.co.uk/article/desperately-seeking-satoshi-zmhl0dx896q
    以上の事から、Satoshiをイギリス人またはアメリカ人と決定づけるような一貫した筆跡情報を導き出す事は、困難でしょう。
  3. スキル
    Satoshiとも何度も議論を交わしたデベロッパーであるGavin Andresenによれば、Satoshiはプログラマーとしては優秀だったが、ソフト開発の基本的な作法については知らなかった旨を述べています。また、Satoshiの暗号手法等に関する理解についても、高いレベルではなかったようです。
    https://cointelegraph.com/news/satoshi-was-not-a-cryptographer-says-gavin-andresen

Satoshiと考えられた人物達との関連性

  1. Hal Finneyとの関連性
    彼はBitcoinをSatoshiと取引した最初の人物だとされています。Genesis coinから12cbQLTFMXRnSzktFkuoG3eHoMeFtpTu3Sへの取引は以下で確認できます。https://www.blockchain.com/btc/address/12cbQLTFMXRnSzktFkuoG3eHoMeFtpTu3S
    彼をSatoshiだと考える方もいますが、先述のGavinのコメント通り、Satoshiは熟練したソフトウェアエンジニアではありませんでした。従って、彼はあくまで最初のSatoshiの協力者であったと言えるでしょう。
    また、彼はBitcointalkへの投稿の中で、「Satoshiは礼儀正しい日系の若者だと思った。」旨の記載をしています。
    Bitcoin and me (Hal Finney)
    Bitcoin and me (Hal Finney)
  2. Nick Szaboとの関連性
    彼はBitcoinに最も近い概念である、Bitgoldを2005年に発表したアメリカ人です。ところが、SatoshiはAdam backのHash CashやWei DaiのB-moneyをBitcoinの論文の中で参考文献として取り上げたにも関わらず、Bitgoldについては全く取り上げなかったのです。これはNick Szabo自身がSatoshiだと思われないための意図的なものだと考えることも可能でしょう。
    また、彼の文体はSatoshiと非常に似通っていることが、以下の通り文体分析により明らかにされています(後述のWei Daiも比較されています)。
    https://drive.google.com/file/d/1T3ITw4KL-QKy1zY3fpM1yTZ799HZLoPS/view
    なお、彼は法学者であり、デジタルカレンシーを専門としており、スマートコントラクトの提唱者として知られています。また、通貨の歴史等の経済学にも精通しており、それは以下のブログからも読み取ることが出来ます。
    Nick Szabo's Home Page
  3. Dorian Satoshi Nakamotoとの関連性
    彼が注目されたのはSatoshi Nakamotoと言う名前を持つ日系アメリカ人だという事が最大の理由でしょう。彼は当初「私はもうビットコインとの関連はない」と口ずさみましたが、その後は一貫してSatoshi本人である事を否定しました。一方、彼が住んでいる場所はHal Finneyが住んでいたカリフォルニアのテンプルシティであったことから、彼らには関連性があるのではないかと推察する意見もあります。
    ただし、匿名を貫こうとするSatoshiが、その辺の記者が推察できるような名前を論文中に記載する事は考えにくいでしょう。実際、Satoshiは自分の素性が知られないように常に最善を尽くしてきました。この事からも、Satoshiと名前が同じDorianは、名前が同じであるからこそSatoshiではないと考えられます。
  4. Adam Backとの関連性
    Adam Backは1997年にHash Cashの提唱した方で、Hash CashはProof of Workの前身の様なものです。Satoshiは2008年8月に彼にe-mailを送り、Adam BackはBitcoinに類似のアイデア(B-money)があるとして、その提唱者であるWei Daiを紹介しました。
    https://www.gwern.net/docs/bitcoin/2008-nakamoto
    前述の通り、彼はProof of Workの前身であるHash Cashを提唱していたことから、Satoshiだと考えられた時期もありましたが、以下のBitcointalkのスレの自己紹介からは、2013年時点で30年以上プログラミングに携わっているエキスパートであり、Satoshiとのスキル差は非常に大きいように思われます。
    https://bitcointalk.org/index.php?topic=15672.msg1873483#msg1873483
  5. Wei Daiとの関連性
    先述の様に、Wei DaiはAdam backの次にSatoshiが接触したとされる方でした。B-moneyはWei Daiが1998年に提唱した「匿名の分散電子決済システム」です。SatoshiはAdam Backに紹介されたWei Daiと、2008年8月22日以降、以下の通り3つのメールのやり取りを行っています。このメールの中では、BitcoinはB-moneyの機能を拡張したものであり、その理論を実装に至らしめたとSatoshiが説明しています。
    https://www.gwern.net/docs/bitcoin/2008-nakamoto
    Wei DaiをSatoshiと考える意見もありますが、文体が先述のNick Szaboと比較するとSatoshiとは異なる点や、Bitcoinの論文自体に彼のB-moneyの参照がされた事からも、彼をSatoshiと考えるのは困難だと考えられます。
    ちなみに、WeiはEthereumの最小単位ですが、これは以下のEthereumのWhite Paperの中でも説明されており、暗号資産の発展に彼がいかに寄与したかが分かります。
    ethereum/wiki
    The Ethereum Wiki. Contribute to ethereum/wiki development by creating an account on GitHub.
  6. Craig Wrightとの関連性
    Craig Wright本人が「Satoshi Nakamoto」と名乗り出た稀有な例です。「Computer Science」等のBitcoinの開発に寄与する学位や博士号を取っていたり、Bitcoinの論文が発表される前に同様のブログを発表していたり、彼がSatoshi本人だと表明した当初は、彼を本人だと考える方もいました。しかし、その後メディア等の調査により、上記情報はほぼ詐称である事が判明し、炎上してしまいました。最近ではEthereumの創設者であるVitalik Buterinからも、以下の通り「クレイグライトは詐欺師だ」と厳しく批判されています。
    https://www.ccn.com/vitalik-buterin-re-craig-wright-deconomy-2018-fraud/
    これらの情報に基にすれば、彼がSatoshiである事は完全に否定して良いでしょう。
  7. その他
    その他にも、日本人数学者の望月新一であるとか、個人ではなくグループであるといった主張もありますが、上記と比較したらあまりに情報が少なく、説得力がありません。Satoshi Nakamotoは
    CIA(Central Intelligence Agency)の名を取って「Satoshi = Intelligence、Nakamoto = Central」であるという考えは大変興味深いものですが、Bitcoinの論文の最初の投稿時に、その作業が一人で行われた完成度である事から考えれば、組織ではなく個人である可能性の方が高いと考えられます。

Why?(なぜBitcoinの開発が行われたか?)

Bitcoinの開発理由

  • BitcoinのGenesis Block(ブロックチェーン上で最初に作成されたブロック)には「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks」という、Satoshiによる記載があります。
    https://www.blockchain.com/btc/tx/4a5e1e4baab89f3a32518a88c31bc87f618f76673e2cc77ab2127b7afdeda33b
    これはイギリスのTimesの記事の見出し(2009年1月3日)で、「イギリスの財務大臣、二度目の銀行救済措置をするか?」という旨のものです。また、実際に2009年2月11日には「P2P foundation」という掲示板への投稿の中で、「The central bank must be trusted not to debase the currency, but the history of fiat currencies is full of breaches of that trust. 」と述べており、今までの歴史を振り返ると、中央銀行が信頼を裏切るのは必然と考えていたようです。
    これらは正に、Bitcoinの理念である銀行等の第三者が介入しない決済システム」の必要性を強く表明したものと言えるでしょう。

How?(どのようにBitcoinの開発が行われたか?)

  • 骨格はSatoshiが作成し、後に他の開発者に引継ぎ
    SatoshiがBitcoinの基本的な部分を殆ど彼一人で作り上げたことは、2008年10月31日のハロウィンの日にサイファーパンクのメールリストにBitcoinの論文を掲載し、それに対して特にHal Finneyが興味を持ち、たった2か月後の2009年1月3日にGenesis Blockを誕生させた事からも、可能性が高いと言えます。
    2010年12月12日を最後に、Bitcointalkからも姿を消してしまい、その後を引き継ぐこととなったのがGavin Andresenです。その後も短期間ですが、各開発者とはメールで開発について連絡を取り合った様です。

終わりに

体系的にSatoshi Nakamotoが誰であるかの分析をしましたが、私の知識不足等により重要な情報を見逃していたり、些細な情報を重要だと判断している可能性があります。また、これらの情報はあくまで周辺情報を頼りにした推察に過ぎず、「完全にSatoshiは個人である」「イギリス人またはアメリカ人であることは間違いない」と言った断定は困難です。従って、Satoshiを完全に特定するには基本的には彼が名乗り出て、プライベートキーによる証明を本人がする他ないでしょう。

私のこの投稿を見てももし気になる点があれば、このブログのコメントでもよいですし、Bitcointalkに立てた以下のスレを通してでも良いので、ご指摘いただければ幸いです。

なお、この投稿は今後もブラッシュアップし、Satoshiについて正しい情報を基に引き続き分析していく予定です。

コメント